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柴草玲(しばくされい) Tango de SA-GE-MA-N.



ほぼ一日、ぼうっと座っていた。
すっかり暗くなってカーテンを開けたら、
あたり一面、見事に靄がかかっている。
これは外に出なくては!と、
急いで上着を引っかけて、ながぐつを履いて森(公園)へ。

人のいない森(公園)の中はもう、
凄まじく幻想的であり、
例えば、池の対岸側の木々はうっすらとしか見えないのであり、
また、すべての街灯の輪郭はぼやけ、
しかし、木の枝々の隙間から、
靄に反射した光が放射状に伸びていたりして、
それはそれは美しいのである。
ここに長く住んでいるが、こんなに靄っているのも珍しい。

今日は課題が何も進まなかった、と、重たい気分だったが、
ああ、こんなに美しい景色を見る事ができた、
今日は良い日だった、
と思っていたら前方から犬の散歩おやじが近づいて来る。
犬の種類を見ようと、目をこらした途端、
いきなりおやじは、かー、ペッ!!と大音量でやらかしてくれた。

急いで耳をふさいだけれど、間に合わなかった。
いつものように耳栓をしておけば良かった。
なんせ急いで部屋を飛び出して来たからなあ、、。

おやじよ。
長年家族のためになりふりかまわず働いて、
この閑静な住宅街に家のひとつも建てたかもしれない、
おそらくもう退職し、ローンの返済も終わり、
ようやくのんびりできる日々を謳歌しているのかもしれないおやじよ。
あんた立派な人生を送り、日本の経済とかに貢献して来たのかもしれないが、
今の行為はいただけない。
心から、いただけない。
なんでこんなに美しい景色の中で、昼間の雨と夜露に濡れてきらめく土の上に、
なんで、なんでかーぺッ!ができるのかおやじよ。


そんなんどうでもいいじゃん、出るものはしょうがないじゃんか、
とおっしゃる方も多いかもしれないけれど、
わたしは本当に苦手なのだ、あの音も、吐き捨てられたものも。
日本総男子の中で、あれをやる割合はどれくらいなんだろう。
年齢層はやはり高めか。

それどころじゃ無かっただろうが、
戦後の教育ではぜひ、
「男子たるもの、いかなる場合も道にTANを吐くべからず」という事を、
何よりも徹底して欲しかった。
経済よりも、美意識が大事だ、
真面目にそう思う。


おやじは犬と共に遠ざかり、
わたしは気を取り直して森(公園)を歩き回ったが、
台無しにされた気分はもう戻らず、そのままとぼとぼとスーパーに向かって豆乳を買い、
そして、家に帰った。
帰りがけ、出窓のある立派なツーバイフォーのお家から、
ドボルザークなんぞが聴こえた。
by reishibakusa | 2012-11-06 23:01